紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

金子みすゞと同世代の西城八十門下の詩人の詩を紹介

詩人秋野さち子の詩 Ⅳ(1872~1983)

「綴じてない詩集」
抱えていて
ふと とり落とすと
パラパラの紙片になてしまう
そこに数行の詩句があるだけ
風が吹いたらどこまでも飛んでいってしまう
そこには綴じてないから扉がない
だから守ることができない
傷みからも紛失からも
といって何処に求めたらよいか
標榜の嵐や裏切りの亀裂にも揺るがない扉と
あの人につながれた糸のような綴じ紐を

文房具店の前を素通りして
詩集は私の窓辺におこう
心ある風がつれてゆくなら

私の詩片よ
スモッグのない深い空をとんでゆけ
西の国の厚い灰色の壁にはりつき
戦場の街ではいたいけな瞳を覗き
イムジン江を越えて
心のふるさとと呼ぶ北の朝の国へ
更にその上に自分が自分である為には
愛する人にわかってもらえと
湧き上がる積乱雲にぶちまけるがいい