紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

金子みすゞと同世代の西城八十門下の詩人の詩を紹介

'21-2-2 詩集「夕茜の空に」より

上弦の月

「詩人は月に一度か二度、死について考える」
どこかで聞いた言葉だが
若い時から私はもっと繁く
事あるごとに死に親しまれてきたようだ。
それが今、平均年齢を越えて
まだうろうろしている。
聞けば誰でも、瞬間
ちょっと身じろぐ名前の病名をもらって
生き甲斐ではないが
死に甲斐のような
平安な似た気持ちになっている
まだ痛みが来ない所為かもしれない。

見上げる晩秋の青い空に浮かんでいるのは
向こうが透けて見える
淡く白い上弦の月
あの向こうは何だろう
この静けさは何だろう
過ぎた戦の日々に
生き甲斐を抱いて散ったいのちを思い
誰をも身じろがせる死に甲斐に添えて
老いた心は、せめて
同じ病のいのちへの平安を祈りたい。

風は銀河を渡ってくるのだろう
こんな夕に
私の脳髄や皮膚がはがれて
夕風の中を舞い上がってゆけばいい
気障でなく
書きかけた詩のひとひらをのせて―