紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

金子みすゞと同世代の西城八十門下の詩人の詩を紹介

20210215[夕茜の空に]より

海も砂漠も
波が黒くゆらめき
水鳥は油ぬめりを振るい落とそうと
身をふるわせる
見はるかす砂漠の遠景に
音もなく歩む捕虜の一列の影絵は
非現実なモノクロームの虚像

油にまみれた水鳥は ジュゴンは 海亀は
種族を残して生き続けられるか
砂にまみれて死んだ兵士に帰還はない
生き損なうより
死に損なった捕虜の胸に
どんな叫びが籠っているか

戦争は終わったと誰かが言ったが
戦争は終わっていない
黒鳥になった水鳥のすべての羽が
澄んだ水で濯がれるまでは
捕虜であった人の心の足裏の
熱砂のほてりが消えるまでは

今日も砂漠は
言葉のままの紅蓮の海だから―