紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

金子みすゞと同世代の西城八十門下の詩人の詩を紹介

20210210詩集(夕茜の空に)より

    黄梅
葉にさきがける花びらは
痛みというものを知らないだろうと
思わせる あどけない黄色
この冷たさ中に開く
小さい小さい花のりりしさは
黄梅の名に恥じないものと思った時
たわんだ細い枝に整列した花達が
ブルンとゆれて
  私は梅ではありません
  六弁の梅がいたら逢わせて下さい
  小さくても 似ていても
  黄色いほのおに
  私だけのおもいをこめてています、と

 おお、そうでした
黄梅という名にわたしは捕らわれていた
痛みを知らないだろうとか
あどけないとかなどと言われても
あなたはみんな知っているのだ
生まれてきた道も
散る花びらのうすれゆく虹の心も
虹の向こうの大きな嘆きの潮騒
聞く耳を持っているのだ

合わせた掌の中に黄梅の澄んだ声が
笛の音のかすかな匂いになってただよう