紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

金子みすゞと同世代の西城八十門下の詩人の詩を紹介

2021-01-01から1年間の記事一覧

20210218 詩集(夕茜の空に)より

黙して語る詩を 夏負けで咲かなかった朝顔が冬近くなって命の勤めそのままに 褒められることもなくひたすら咲きつづけたという わたしのいのちは勤めをおこたり砂山の陰に横たわっているいくたびも脳を 胸を 骨を輪切りにしてCTスキャンよわたしのいのちのか…

20210215[夕茜の空に]より

海も砂漠も 波が黒くゆらめき 水鳥は油ぬめりを振るい落とそうと 身をふるわせる 見はるかす砂漠の遠景に 音もなく歩む捕虜の一列の影絵は 非現実なモノクロームの虚像 油にまみれた水鳥は ジュゴンは 海亀は 種族を残して生き続けられるか 砂にまみれて死ん…

20210210詩集(夕茜の空に)より

黄梅 葉にさきがける花びらは 痛みというものを知らないだろうと 思わせる あどけない黄色 この冷たさ中に開く 小さい小さい花のりりしさは 黄梅の名に恥じないものと思った時 たわんだ細い枝に整列した花達が ブルンとゆれて 私は梅ではありません 六弁の梅…

20210204 詩集「夕茜の空に」より

海を見る 鎌倉の海 能登の海 幾度か渡った 玄界灘 横たわって 海を見る こういう時はあの海がいい 北風が波しぶきをあげていたオホーツクの海 白い鳥が舞っていた 崖の上から海を見た日 わたしのゆく道は はるかな夕陽の波の上にあった 崖っぷち それは覗く…

'21-2-3日 詩集「夕茜の空に」より

朝明けの青い空に くっきり浮いている半かけの月 弦を右にして 少し上向きの横顔は やがてその弦をかきならし 真昼の海原に 燃える口づけをするのか 深夜の空に昇りはじめる時 その弦には 今日の詩がすでに籠められているのか 未来も過去も 一目で見渡せる宇…

'21-2-2 詩集「夕茜の空に」より

「詩人は月に一度か二度、死について考える」 どこかで聞いた言葉だが 若い時から私はもっと繁く 事あるごとに死に親しまれてきたようだ。 それが今、平均年齢を越えて まだうろうろしている。 聞けば誰でも、瞬間 ちょっと身じろぐ名前の病名をもらって 生…

'21-1-30詩集「夕茜の空に」より

ここにも、赤い三角形を 三つあしらった標識がある。 この標識に囲まれた白い館が わたしのいのちの城なのか。 まずは、型とりの儀式、 十三階段ではないが 五つ六つの階段を 横たわるシェルターでは 薄衣に似たガウン一枚の裸身に添って 発泡スチロール状の…

'21-1-27詩集「夕茜の空に」より

誰に決められたのか、知ろうともしないで 長い長い廊下を通って 地下へ地下へと下り 誰もいないこの白い壁に囲まれた室内に 何故か、不安氣もなく わたしは坐っている。 応接間のような優しいソファと 椅子が何脚かあり 白い壁に絵がかけられいて それがルネ…

'21/1/25詩集「夕茜の空に」より[小豚に乳首を」

[小豚に乳首を」 片手に自分の子供抱き もう片方に抱えた 親を亡くした子豚の口に ふくよかな乳房をふくませて 授乳するグアジャ族の母親、 この写真を新聞紙上に見た時、胸がつまった。 悲しくも私には授乳の経験はないが 見つめていると自分の乳首に疼き…

'21/1/24詩集[夕茜の空に」より

「夕茜の空に」 日は翳ったが 夕茜のただよう中に おさな声が ひびいてきた おかあさあん 少しはなれた答えの声も聞こえる おかあさあん と わたしも呼び続けた覚えがある むかしむかし 母がまだ美しかった頃 わたしは末っ子だったから 母はいつもわたしのそ…

Ⅲ(1956-1968)より「塀」

「塀」 塀にそって歩いてゆく 長い塀 角をまわって塀はつづく 塀には落書きがしてある 爪あとがある ペンキがぬりたくってある それを撫でて歩いていると ふと 塀にばかり添って歩いていることを忘れている時がある このかこまれた塀の中は ひとまわりしてま…

詩人秋野さち子の詩 Ⅳ(1972~1983)

「入り江に」 一本の樹が燃えつづけている森へ 心は傾いてゆくだけだ 道は腸のように曲がりくねっているが ゆきつくのは炎の樹 炎はくさび形にゆらめいて 血液の襞にするりとすべり込み 咽喉の奥に蠢いている 白い棘をひきぬいてくれる 海がひらけてきた 夕…

詩人秋野さち子の詩 Ⅳ(1872~1983)

「綴じてない詩集」 抱えていて ふと とり落とすと パラパラの紙片になてしまう そこに数行の詩句があるだけ 風が吹いたらどこまでも飛んでいってしまう そこには綴じてないから扉がない だから守ることができない 傷みからも紛失からも といって何処に求め…

 秋野さち子全詩集Ⅳ(1972-1983)より

「狂い」 額田の王の話を聞いた帰り道 「そうしてはいけないかしら」 夫子のある若い女(ひと)は ボールを投げて来た 夫子あるなしより 狂いの軽重ではないのか 近景は走り去り 遠景はゆっくりその姿を見せている 愛と言わずに来いと言わずに 狂いと言う わ…

詩人秋野さち子全詩集の年譜によると彼女は1912年明治45年に旧北朝鮮に生まれ小学に入学したが東京の兄のもとに来て千駄ヶ谷第2小学校に転校し関東大震災に遭い2年後に同校を卒業した。 4月に朝鮮平壌の両親の元に戻り平壌の高等女学校に入学し、文学に目覚…

詩人秋野さち子の詩  

詩人秋野さち子全詩集の年譜によると彼女は1912年明治45年に旧北朝鮮に生まれ小学に入学したが東京の兄のもとに来て千駄ヶ谷第2小学校に転校し関東大震災に遭い2年後に同校を卒業した。 4月に朝鮮平壌の両親の元に戻り平壌の高等女学校に入学し、文学に目覚…

詩人秋野さち子の詩紹介

奇しくも今のコロナ禍に匹敵する大正のスペイン風邪で父(僕の祖父)を失った12歳の僕の父が独り京城の叔母の嫁ぎ先中村家に渡り、そこの兄弟姉妹と一緒に育て貰ったので僕には本当の叔父叔母に当たる。その一番若い叔父中村秀雄氏が秋野さち子の夫君であっ…

前書き、夢雪、帆、

奇しくも今のコロナ禍に匹敵する大正のスペイン風邪で父(僕の祖父)を失った12歳の僕の父が独り京城の叔母の嫁ぎ先中村家に渡り、そこの兄弟姉妹と一緒に育て貰ったので僕には本当の叔父叔母に当たる。その一番若い叔父中村秀雄氏が秋野さち子の夫君であっ…