紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

金子みすゞと同世代の西城八十門下の詩人の詩を紹介

 秋野さち子全詩集Ⅳ(1972-1983)より

「狂い」
 額田の王の話を聞いた帰り道
「そうしてはいけないかしら」
夫子のある若い女(ひと)は
ボールを投げて来た     
夫子あるなしより
狂いの軽重ではないのか

近景は走り去り
遠景はゆっくりその姿を見せている
愛と言わずに恋と言わずに
狂いと言う わたしの遠景
「泣くのも笑うのもあなたなのだからー」
ボールを投げ返した

燃えるものを揚げなければ
行く手の冥い道へ
日々わたしも静かに発狂していく