紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

金子みすゞと同世代の西城八十門下の詩人の詩を紹介

'21/1/25詩集「夕茜の空に」より[小豚に乳首を」

[小豚に乳首を」

[小豚に乳首を」
片手に自分の子供抱き
もう片方に抱えた
親を亡くした子豚の口に
ふくよかな乳房をふくませて
授乳するグアジャ族の母親、
この写真を新聞紙上に見た時、胸がつまった。
悲しくも私には授乳の経験はないが
見つめていると自分の乳首に疼きを感じる。

豚の乳を貰ったことはないが
牛や羊からは
人間は沢山の乳を貰っている、
けれど牛や羊に乳のお返しをしただろうか
そして豚の子供に
直に自分の乳房をふくませるとは―
この哀しいまでの優しさに私の胸はせまる、
このストレートな想いを
甘いと笑うものはないはずだがー

今 この現実があったら
私はなにをしただろう
何かを与えようとは考えていても
自分の乳首をふくませるだろうか
我が子も子豚も
同じ地球に生きる仲間として
暖かく抱くこの母親の前で
身内をよぎる戦慄は 私に恥ずかしさを教える。

この母親は、 私のひそかな願いを入れて
今日も、小さい庭のしたる藤の花房のもとに
魂をゆするその姿態をただよわせている。