「夕茜の空に」
日は翳ったが 夕茜のただよう中に
おさな声が ひびいてきた
おかあさあん
少しはなれた答えの声も聞こえる
おかあさあん と
わたしも呼び続けた覚えがある
むかしむかし 母がまだ美しかった頃
わたしは末っ子だったから
母はいつもわたしのそばにいたと思う
縫物をしたり 花を生けたりしながら
自分が読んだものを
おとぎ話のようにやさしく話してくれた
その中に 源氏物語や巌窟王、釈迦一代記が
あったことを大人になってから知った
優しかった母 けれど昔の母は
優しいばかりではなく厳しさもあった
そういう母を今 思い出したのは
幼な声の
おかあさあん
夕茜の空にその余韻を追っている