紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

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'21/1/24詩集[夕茜の空に」より

「夕茜の空に」
日は翳ったが 夕茜のただよう中に
おさな声が ひびいてきた
 おかあさあん
少しはなれた答えの声も聞こえる
おかあさあん と  
わたしも呼び続けた覚えがある
むかしむかし 母がまだ美しかった頃

わたしは末っ子だったから
母はいつもわたしのそばにいたと思う
縫物をしたり 花を生けたりしながら
自分が読んだものを
おとぎ話のようにやさしく話してくれた
その中に 源氏物語巌窟王、釈迦一代記が
あったことを大人になってから知った

優しかった母 けれど昔の母は
優しいばかりではなく厳しさもあった
そういう母を今 思い出したのは
幼な声の
 おかあさあん
夕茜の空にその余韻を追っている