紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

金子みすゞと同世代の西城八十門下の詩人の詩を紹介

20210204 詩集「夕茜の空に」より

横たわって 海を見る

海を見る
鎌倉の海 能登の海
幾度か渡った 玄界灘
横たわって 海を見る
こういう時はあの海がいい
北風が波しぶきをあげていたオホーツクの海
白い鳥が舞っていた
崖の上から海を見た日
わたしのゆく道は
はるかな夕陽の波の上にあった
崖っぷち それは覗くものだ
横たわっているのだから
ここは崖の底辺
鳥になって翔ばなければならない
北風のするどい切り口に口づけて崖を攀じる

崖は突如
絶壁を雪崩れるけものになる時がある
けものにおそわれ
痛みが喉の渓流をえぐるとき
夕陽が断崖を色どれば
崖は饗宴の竪琴をかなでるだろう
その時 わたしは鳥になれる
はばたき 翔び立ち
燃えつきて 白い風になれるだろう―