紹介:詩人秋野さち子(従叔母)の詩

金子みすゞと同世代の西城八十門下の詩人の詩を紹介

Ⅲ(1956-1968)より「塀」

「塀」
塀にそって歩いてゆく
長い塀 角をまわって塀はつづく
塀には落書きがしてある
爪あとがある ペンキがぬりたくってある
それを撫でて歩いていると
ふと 塀にばかり添って歩いていることを忘れている時がある

このかこまれた塀の中
ひとまわりしてまた元にもどってゆくようだ
けれど落書きは違っている
ペンキの色も複雑になった
坂があったり階段があったり
だから塀は限りなく高く感じたり
苦もなく飛び越せそうに思えたり

ここに深くえぐられた爪あとがある
爪あとに爪をあてゝえぐって見る
爪に食い込む石のかけら
爪は痛い 疼いて血が流れる
しかし 小さな穴をあけなければならない
亀裂の生じるピシッという音が聞きたい